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ギフト通販業界で18年、バイヤー・商品企画として1,000社以上の食品会社様とお取引を重ね、数々のヒット商品を手がけてきました。

今は、その知見を活かし中小食品会社様のギフト事業を“売れる形”にするお手伝いをしている内田です。

今日は「値上げせず「高利益」を生む価格戦略:行動心理学で顧客が「買いたくなる」仕組み」ついてお話しします。

目次


なぜ「安さ」だけでは勝てないのか?

「ウチの商品は良いものなのに、大手の安売りには勝てない」「値上げしたいけれど、お客さんが離れるのが怖い」「適正価格が分からず、いつも他社の真似になってしまう」

もしあなたが、このような価格設定のジレンマに悩んでいるなら、それは価格を「コストの積み上げ」や「市場の平均」だけで決めているからかもしれません。

中小企業にとって、価格は売上や利益を左右するだけでなく、「会社の価値」を顧客に伝える最も重要なメッセージです。大企業のような圧倒的な「安さ」や「物量」で勝負できない私たちこそ、価格決定を心理学と戦略に基づいて行う必要があります。


この記事で分かること

  1. 人が無意識に「お得だ」と感じる価格のメカニズムが分かり、自信を持って価格設定できるようになります。
  2. 「ゴルディロックス効果」など、具体的な心理テクニックを使って、あなたが本当に売りたい商品に顧客を誘導する具体的な方法が分かります。
  3. 価格戦略を成功させるためのステップと、顧客を失わずに値上げを実現する方法が手に入ります。

なぜ980円や1,980円が有効なのか?

まず、なぜ私たちの商品が「高い」と感じられてしまうのか、その背景にある顧客心理を理解しましょう。

A. アンカリング効果(最初に見た価格に引きずられる心理)

人間は、最初に提示された情報(アンカー)に、その後の判断が強く引っ張られます。これがアンカリング効果です。

例えば、スーパーで「通常価格5,000円」と書かれた横に「特別価格3,980円」と表示されているのを見たとき、私たちは3,980円が本当に安いかどうかではなく、「5,000円」というアンカーと比べて「お得だ」と感じてしまいます。

  • 応用
    顧客にまず競合のハイエンドモデルや、自社の最高級ラインの価格を提示し、その後に「標準モデル」を見せることで、「この価格なら妥当だ」という心理的な基準を先に作ることができます。


B. 端数価格効果(左側の数字が購買意欲を左右する心理)

商品価格を「1,000円」ではなく「980円」にするテクニックは、人間が左側の数字を最初に認識し、そこで価格の印象を決めてしまうという行動心理によるものです。

  • 1,980円と2,000円の違い
    たった20円の差ですが、顧客の頭の中では「1,000円台」と「2,000円台」というカテゴリの差として認識されます。
  • 応用と注意点
    この端数価格は、日常使いの消耗品や自家需要品には非常に有効です。しかし、高額な商品や「贈答品」のように体裁が重要視される商品の場合、あえて5,000円、10,000円のように丸めた価格の方が、信頼性や高級感を強調できます。あなたの扱う商品の種類によって、端数を使うか丸めるかを戦略的に判断しましょう。

C. プロスペクト理論と損失回避(人は得より損を強く感じる心理)

行動経済学の創始者の一人、ダニエル・カーネマンが提唱した理論です。人は得をする喜びよりも、損をする痛みを約2倍強く感じます。

  • 応用
    「この商品を買うことで得られるメリット」を強調するよりも、「この商品を買わないことで、あなたが失う機会(時間、健康、競合に遅れを取ること)」を強調する方が、購入のモチベーションにつながりやすい傾向があります。

価格戦略の核となる「ゴルディロックス効果」の活用法

価格設定で最も強力な心理テクニックの一つがゴルディロックス効果です。

これは、童話『ゴルディロックスと三匹のくま』で、少女ゴルディロックスが「熱すぎるお粥でも、冷たすぎるお粥でもなく、ちょうど良いお粥」を選ぶという話に由来しています。

人は選択肢が3つあると、極端なものは避け、真ん中のものを選ぶ傾向があるという心理学の法則です。

【活用シミュレーション:既存商品に「松竹梅」を導入する】

もしあなたの会社が、現在「3,000円」と「5,000円」の2種類しか販売しておらず、利益率の高い「5,000円」があまり売れていないという課題を抱えていると仮定しましょう。顧客は「標準品で十分だ」と判断している可能性が高いです。

ここで、ゴルディロックス効果を適用するために、最も高価格の「8,000円」の商品を新たに設定します。

価格帯商品名価格目的
松(最上位)【至高】伝統製法・〇年熟成(限定品)8,000円アンカーとなり、「竹」の価格を相対的に安く、価値あるものに見せる。
竹(本命商品)【特選】熟練の職人仕込み(御社が本当に売りたい商品)5,000円ゴルディロックス効果で顧客の多くに選ばせる本命商品。
梅(低価格帯)【標準】日常使いのお得なセット3,000円価格の比較対象として設置し、購入のハードルを下げる。

シミュレーション効果
「松」の8,000円が基準点(アンカー)になったことで、「竹」の5,000が「真ん中で、バランスの良い選択」だと顧客に無意識に認識されます。結果、「竹」の売上個数が増加し、平均顧客単価と全体の利益率が向上することが期待できます。

顧客は「一番高い松は贅沢だけど、一番安い梅では物足りない。真ん中の竹が、品質と価格のバランスが取れていてちょうど良い」と無意識に判断するのです。

中小企業が価格戦略を成功させるための5つのステップ

心理学的なテクニックを、あなたの会社の戦略に落とし込むための具体的なステップを紹介します。

ステップ1:ペルソナ(理想の顧客像)を明確にし、「価格以外の価値」を定義する

価格設定の前に、「あなたの商品に、対価を惜しまない顧客」は誰なのかを明確にします。

  • 安売り顧客は狙わない
    競合と1円でも安い方を比べる顧客は、中小企業にとって最も避けるべきターゲットです。
  • 価値の定義
    「安心・安全」「手作り」「社長の顔が見える」「産地へのこだわり」など、価格以外の「情緒的な価値」を顧客に明確に伝え、その価値に基づいて価格を設定します。


ステップ2:必ず「3段階の価格帯」を設定する

ゴルディロックス効果を意図的に活用します。

  • 最上位(極端な価格)
    利益は出なくても構いません。「ウチの技術を見せる」「基準点を上げる」ためのアンカーとして機能させます。
  • 中位(本命)
    最も利益率が高く、購入してほしい商品をここに置きます。

  • 最下位(比較用)
    顧客が「リスクなく試せる」と感じる価格帯で設定します。

ステップ3:価格提示の際の「比較対象」を意図的に作る

顧客に「なぜこの価格が安いのか」という比較の土台を提供します。

  • 分割提示
    価格を「年間費用」ではなく「1日あたりの費用」に分割して提示します。(例:年間36,000円の商品を「1日あたり100円の投資で健康が手に入る」と表現)。
  • セット価格の利用
    バラ売りよりも、セット価格(例:3個セット5,000円)を設定し、「単品価格の合計」を比較アンカーとして提示することで、セットの割安感を引き立てます。

ステップ4:松竹梅の「ネーミング」に心理を仕込む

松竹梅の設定では、ただ価格を変えるだけでなく、ネーミングで顧客の選択を誘導します。

  • 梅: 「とりあえず」「お試し」のような消極的な選択と感じさせる。
  • 竹(本命): 「当店一番人気」「プロが推奨」「スタンダード」など、大多数の人が選んでいる安心感を与えるネーミングにする。
  • 松: 「限定」「至高」「最高級」など、承認欲求を刺激するネーミングにする。

ステップ5:値上げは「サービスの分割」と「大義名分」で成功させる

多くの企業が直面する「値上げ」の壁は、プロスペクト理論の「損失回避」の心理で発生します。この痛みを和らげましょう。

  • 分割値上げ
    全品一律で10%値上げするのではなく、「一番売れている本命商品だけは現状維持」とし、周辺サービス(送料、オプション)の価格を見直すなど、痛みを分割します。
  • 大義名分
    「原材料の高騰でやむなく」ではなく、「より良い品質を維持するため、〇〇(新しい設備やサービス)に投資します」という未来への期待を込めた大義名分を掲げます。

FAQ(よくある質問)と専門家からのアドバイス

Q1:地域で最安値にしないと客が来ない気がします。どうすれば?

A:地域最安値は「価格競争」の罠です。

価格を下げるのは、体力勝負になる大企業の戦略です。中小企業は、「価格を比較されない」独自のポジションを築くべきです。

例えば、「地域で唯一の〇〇(オーガニック食材、〇〇農法など)を使った商品」「他社にはない手書きのメッセージカードを同梱する」など、価格を比較する土台そのものを顧客の頭の中から消しましょう。あなたの会社の「価格以外のこだわり」こそが、値上げを可能にする資産です。

Q2:セット販売を提案すると、顧客が逆に割高に感じてしまいます。

A:セット販売の価格を「バラで買う場合の合計価格」と並べて明確に表示してください。

セットが単品より割安であることを明確に示さないと、顧客は不安を感じます(プロスペクト理論)。「通常価格 合計6,000円」と太字で表示し、その横に「セット価格 4,980円(1,020円のお得!)」とどれだけ得をするかを強調することで、セット購入への心理的なハードルが劇的に下がります。

Q3:価格設定の際に、絶対に避けるべき失敗は何ですか?

A:根拠のない「安い価格」で顧客を呼ぶことです。

一度「安い」と認識した顧客は、少しでも値上げすると敏感に離れていきます。低価格で集客しても、「安さ」以外の価値を認めない顧客ばかりになり、収益性が悪化するだけでなく、ブランド価値まで毀損します。中小企業にとって、ブランド価値の低下は死活問題です。最初に適正な、または少し強気の価格を設定し、その価格に見合う価値をサービスやストーリーで後付けすることが重要です。

まとめ 【心理戦を制して、あなたの会社を成長させる】

本記事では、中小企業が価格競争から脱却し、安定した利益を生み出すために、行動心理学に基づいた価格戦略がいかに重要かをお伝えしました。

  • 価格は価値のメッセンジャーであり、コストや市場平均だけで決めるべきではありません。
  • アンカリング効果やゴルディロックス効果を活用し、顧客に「真ん中の、最も利益率の高い商品」を気持ちよく選んでもらいましょう。
  • 3段階の価格設定や、価値を強調するネーミングといった実践的なテクニックを、今日からぜひ導入してください。

あなたの価格戦略を成功に導くための最初の一歩

さて、「価格戦略は心理戦だ」と理解し、新たな一歩を踏み出そうとしているあなたへ。

価格戦略で最も重要なのは、「あなたの商品の、価格以上の『隠れた価値』」を徹底的に洗い出すことです。この価値が明確でないと、ゴルディロックス効果を使っても、「真ん中」の商品が高いのか安いのか、顧客は判断できません。

味には自信があるのに、なぜか利益が出ない、価格競争から抜け出せない——。 それは、せっかくの「隠れた価値」を高収益な『売り方』に変換する戦略が整っていないからです。

もしあなたが「今の価格設定で本当に良いのか」「自信を持って値上げしたいが、どう付加価値をつければいいか分からない」という課題をお持ちなら、その解決の鍵は、私が専門とする『ギフト戦略の設計』にあります。

この「売り方の根本」に着目したチェックリストは、あなたの会社の商品が持つ「隠れた価値」が、高収益なギフト市場で通用する土台になっているかを客観的に診断できます。